■06.09.02up

2004年ウィンターコンサート ■2005年定期演奏会

管理人、運動することを誓う(涙)
 
 取材者にとって藤沢西高校吹奏楽部は苛酷である。

 どのくらい過酷かと言うと、足がつるほどなんだよ....(泣)。

 何しろ吹奏楽部の練習場及び視聴覚教室は5階建て校舎の5階にあり、エレベータなどというものは存在しない。日頃運動していない(というより、高校卒業後一度も全力疾走したことすらない!)管理人にとって、相当な覚悟で臨まねばならない環境にある。

 以前にも藤沢西の吹奏楽部は何度か取材させてもらったが、それは体育館であったり、定演のホールであったり、コンクール会場であったりと、少なくとも「覚悟」の必要のない場所であった。

 しかも、8月22日に一度訪ねさせてもらった際に撮った写真が「ファイルが壊れています」というメッセージとともに全て失われたから大変だ。顧問の新倉先生にお願いして、30日に再度訪問した際には、5階まで一旦昇ったあと、肝心のカメラを車に置き忘れ、取りに戻り、さらには、取材終了後、1階まで降りたあとで、またしても視聴覚教室に取材道具を置いてくるという念の入りようで、計4往復するに至り、足はつる寸前、息はキレギレ。取材後の仕事をキャンセルしようかと本気で考えたほどであった。

 今度取材する時は、あまり標高の高くない、空気の薄くないところでお願いします...

 それにしても、新倉先生は毎日何往復もされているわけで、そのことだけでも尊敬に値します。

 さて、今回の取材は藤沢西高校が吹奏楽コンクールB部門の県大会で見事金賞を射止め、東関東大会へ出場を決めたことが直接的なきっかけではあったのだが、実は、コンクールの湘南地区大会後、取材する約束があったのにお互いの慌しさで叶わなかったという経緯があった。

 地区大会の演奏も実に素晴らしく、是非新倉先生にも、部員の皆さんにもお話を聞きたかったのが、ようやく実現したというわけです。

 去年までと何か変わったところはあったのだろうか....

  
藤沢西高校は校舎の外壁・内壁の至る所に「壁画」が施されている。かなり巧い。歴代の美術部員が描いたものなのだろうか?今度訊いてみます。息切れしていない時に....。

突き破られた壁。そこに何があったのか
 
 藤沢西高校吹奏楽部は、ここ3年、コンクールの湘南地区を突破し、県大会へと進出している。しかし、県大会の壁はなかなか厚いものがあり、一昨年・昨年は銅賞に終わったという結果が残っている。

 それが今年は銀賞を飛び越えて、いきなり金賞(県大会では金賞=東関東大会出場)を獲得。そこに何かマジックはあったのか?管理人はその答えを求めて、ホームグラウンドである学校へと訪ねた。
 
 彼らは夏の陽射しが容赦なく照りつける練習室で、1小節をさらに細分化したフレーズを繰り返し、テンポを変え、強さを変え、納得出来る音になるまで吹き続けていた。

 そして、管理人は一つの答えを見出したのであった....

新旧幹部部員にインタビュー
 
 藤沢西高校吹奏楽部では、夏のコンクールまでを3年生が、9月の文化祭以降を2年生が主導するという体制であるが、今回のように9月に東関東大会に出るというのは部史上初めてであり、現在は2・3年生が仲良く部員たちを引っ張っている。

 そこで、3年生の部長と2年生の部長・副部長に集まって頂き、インタビューさせてもらった。
 
  
左)3年部長・川澄咲子さん(バスクラリネット) 中)2年部長・小川留依さん(アルトサックス) 右)川口遥さん(トロンボーン)

管理人「東関東大会出場おめでとうございます。3年の川澄さん。一昨年・昨年も県大会には出場しましたが、今年東関東まで行けた要因を挙げるとすれば何だったのでしょうか?」
川澄さん「正直言って、何かがすごく変わったということはないとは思いますが、昨年より合奏に集中力があり、長時間であっても乗り切れたところはあったと思います。」
管理人「部長として、何か苦労された点はありましたか?」
川澄さん「いえ。ただ、トランペートパートが1年生だけなのが、ちょっと心配ではありました。でも、しっかりと吹いてくれたのでよかったです。」
管理人「東関東大会ではどんなことを目標にしていますか?」
川澄さん「普段出来ないことが出来れば最高でしょうが、それは難しいでしょうから、周りの音が聴けて、そこに自分の楽器が溶け込んでゆくような演奏にしたいです。一人一人が納得出来るような演奏がしたいですね。」

管理人「2年の新部長・小川さんにお聞きします。9月9日には東関東大会、その翌週には文化祭と大きなステージが続きますが、戸惑いはありますか?」
小川さん「戸惑いといったものはありません。この時期になったら自分が部長になる、ということは前々から決まっていましたので。今は、学年に関係なく発言の場がある雰囲気作りを心掛けています。もっと仲良く、もっと意見もぶつけ合えるようにしたいですね。」
管理人「音楽的にはどういう方向で行きたいと考えていますか?」
小川さん「響く音を作りたいですね。まとまりがあって、きれいな音。そのためには基礎を大切にしたいと思います。」
管理人「トランペットが1年生だけだそうですが...」
小川さん「私も1年生の時、アルトサックスが1年生だけだったのですが、周りを見る余裕もなく、ひどく緊張していました。それを考えると、今のトランペットの子たちはスゴイと思います。」

管理人「では、2年副部長の川口さん。副部長というポジションは、なかなか難しいところもあるかと思いますが、自分はどうあろうとお考えですか?」
川口さん「部長と部員のパイプ役、と言うと大袈裟ですが、目立たないところで部の雰囲気を少しでもよくしたいと思います。裏方に徹する、と言えばよいでしょうか。」

管理人「3人に質問です。東関東大会に出ることで、中学生たちからもかなり注目されることになります。これから進路決定をする彼らに対して、あなた方の所属する藤沢西高校吹奏楽部、或いは“西高サウンド”というものを端的に表現するとしたら、どんなところでしょうか?」
川澄さん「一人では出来ない、明るい音楽を奏でられる。一人一人が自分の楽器と真剣に向かい合って、自分が輝くことの出来る場所だと思います。部員どうし、仲良くなれば、それが音に出るバンドです。」
小川さん「いい意味で力の入っていない音楽の出来る場所ですね。今回のコンクールの曲もそうです。サックスなど、メロをとる楽器も我を張り過ぎず、ちゃんと周りの音も聴こえている、という感じで。」
川口さん「一人一人が吹奏楽を楽しんでいる部活だと思います。演奏者が楽しんでどうするのか、という意見もありますが、やはり演奏する側が楽しくなければ、お客さんも楽しくないのでは、と感じます。うちの部活は、ムリして楽しむというのではなく、演奏以外のところも楽しいですし、それが自然と音楽を楽しめる土台になっていると思います。」

管理人「どうもありがとうございました。東関東大会、文化祭、頑張って下さいね。」
 


 22日の取材の際は、受験勉強関係で不在だった3年生部員松原未知佳さん(クラリネット)と井上菜美さん(テューバ)の2人にも、30日にはお話を聞く機会があり、インタビューさせてもらいました。

 この2人は、遡ること約2年前、湘南地区アンサンブルコンテストをきっかけに管理人とのメールのやりとりが始まった子たちで、藤沢西高校への最初の訪問(2004年ウィンターコンサート)も彼女たちが誘導してくれたものでした。彼女たちが東関東大会出場という偉業を成し遂げ、管理人も感激しています。

管理人「まず、なぜ藤沢西に進学したのかな?吹奏楽をやろうと?」
松原さん「ええ。ただ、誰が指揮者なのかということまでは実は知りませんでした(笑)」
井上さん「私は特別吹奏楽のため、というわけではなかったです。でも、吹奏楽部には入ろうと思っていました。」

管理人「今のそれぞれのパートは中学時代から?自分で望んだ楽器だったのかな?」
松原さん「私は本当はフルート志望だったんですが、中学(茅ヶ崎市立浜須賀中)でパート決めをする時、クラリネットの先輩たちの指使いが未知のものでスゴイと思って鞍替えしました。」
井上さん「中学校(藤沢市立長後中)で仮入部の時に、顧問の先生が(音の高低による)ピラミッドを描いて、それぞれのパートのことを説明してくれて、皆を支える楽器がテューバだと知って、是非やりたいと思いました。」

管理人「さて、藤沢西高校吹奏楽部のことをお聞きしましょう。部の雰囲気は?」
松原さん「『暖かいところ』でしょうか。私自身部活にいて、なんとなく暖かいなーって感じます。ただの仲良しグループで楽器を吹いてます、みたいな生温い感じじゃないです。コンクールでビシバシ!下手な人は吹かせない!みたいな冷たい所じゃないです。だから暖かいところです。一人一人が上手くなるように練習に励んで部を暖めてる感じがします。もちろん練習しなかったり、ギクシャクしたりすると温度は下がります。今の西高吹奏楽部ってほんとうに暖かく感じます。」
(これはメールでもらった言葉からの引用です)
井上さん「中学時代は『楽器を頑張らなくちゃ!』っていう意識がとても強かったですが、ここではそういう力みも必要なく、明るく楽しく吹いています。人間的成長が音にも響く、という感じですね。」

管理人「東関東大会に向けての抱負をお願いします。」
松原さん「今の吹奏楽部がすごい好きです。引退したくないです。だから、この吹奏楽部に長くいられるように頑張ります。目標は引退しない事です。」
(そ...そりゃちょっとムリもあるよ)
井上さん「自分たちが楽しく演奏出来るように、というのが一番ですね。」

管理人「では最後に、これから藤沢西高校を受験しようかと考えている中学生に対してメッセージをお願いします。」
井上さん「平凡ですが、団結感があり、一つになっている部活です。明るく楽しく演奏出来る場所です。」
松原さん「最初はちょっと緩いんじゃないかと思っていましたが、実はそれがメリハリ感をつけるいいところで、とても過ごしやすい部活だと思います。それでも必ず上達しますから、是非!」
管理人「ありがとうございました。東関東大会、よい演奏をしてきて下さいね。」

 これを読んだ中学生諸君が、藤沢西高校吹奏楽部に注目してくれるといいね。

そして、沸点への到達
 
 主顧問でタクトを振る新倉徹也先生は、管理人の記憶が間違っていなければ、藤沢西高校に赴任して7年目の社会科の先生。

 初対面の時から「この人はめちゃめちゃ柔和だなぁ」と思っていましたが、その印象は何度お会いしても変わりません。

 新倉先生にとっても初の東関東大会。昨年までと何が違い、何が継続されたのか。また、東関東大会への意気込みなどをお聞かせ頂きました。
 
管理人「地区大会のあと、県大会までの間に、例年河口湖へ合宿に行かれていますが、これには何かメッセージが込められているのですか?」
新倉先生「まぁ、大袈裟なものではありませんが、メッセージと言えばメッセージも込めています。ただ、何よりも場所・空間を変えることで気分も一新しようという狙いですね。学校で練習することも出来るのですが、暑いということと、演奏以外での繋がりが持てるということが大きいです。私の方からも生徒たちにいろいろと話せますし、生徒どうしも寝食をともにすることで、学年の枠を超えて話をするようになりますね。」

管理人「以前頂いたメールで、今年は選曲がスムーズで、メンバーにも合っていたという内容のことが書かれていましたが、何かポイントのようなものはあったのですか?」
新倉先生「そうですね、その年その年でメンバーは変わりますから、その年のメンバーの顔ぶれを考えて、5月にいくつか候補曲を出すのですが、今年は私も生徒たちの大半も『クラブ・ヨーロッパ』がいいのでは?ということですんなり決まりました。そして、早くこの曲でやっみたいという気持ちに部員たちもなってくれましたね。」
管理人「なるほど。確かに軽快かつ安定感のある演奏で、先程部員の子たちが言っていた『楽しんで演奏している』という言葉にピッタリですね。」
新倉先生「ありがとうございます。『クラブ・ヨーロッパ』は、元気のいい、さわやかな曲で、軽快にヨーロッパの森の中を駆け抜けるようなイメージを出すことができるよう、練習してきたつもりです。」

管理人「日頃の練習では、音が響きづらい教室を使うことが多いですが、本番で使用するホールで戸惑わないものでしょうか?」
新倉先生「戸惑います(キッパリ)。ホールだと自分の音しか聴こえず、音楽全体が小さくなってしまいがちです。そうならないためにも、細かい練習で、他の音を聴くように言います。」

管理人「さて、東関東大会出場を決めた県大会での演奏ですが、何を評価されてのことだとお考えですか?これまでは県大会まで行っても、銅賞という結果に終わって、何かしらの“壁”を感じてこられたかとも思いますが。」
新倉先生「ええ。確かに金賞という結果は嬉しいのですが、今年の生徒たちが今までに較べて飛び抜けてよかったということではないんですね。ただ、細かく練習を積み重ねることはしました。そういう積み重ねをする中で、何が大切なのかを自ら発見できるようになった、ということでしょうか。」

 管理人は、新倉先生のこの言葉を聞いて、「あぁ、これが伝統というものの端緒なのか...」と感じ入ったものだった。

 コップに水を少しずつ注いでゆくうちに、許容量ぎりぎりに至り、表面張力によってこぼれずにいたものが、ついには弾けた。そういう形容が現在の藤沢西高校吹奏楽部には当てはまるであろう。

管理人「では、東関東大会に向けての抱負・目標などお聞かせ下さい。先生自身も関東は初めてなんですよね?」
新倉先生「ええ。場慣れしていないので、それが不安ではありますが...。とにかく、出るだけではダメ、と考えています。湘南地区・神奈川県の代表として、県大会よりさらに一段・二段高いレベルで、西高らしい音を出してきたいです。」
管理人「はい。期待しています。今日はどうもありがとうございました。」


 「真実は細部に宿る」という言葉があるが、細部に真実を宿らせることの出来る状況というのは稀にしか訪れてくれない。今の彼らは、けして眉間にしわを寄せたり、深刻そうな顔をしているわけではないが、間違いなく“ゾーン”に入り、細部に真実を宿らせることの出来る機会を得ている。西高吹奏楽部らしく、演奏を楽しみつつ。

 『クラブ・ヨーロッパ』という、彼らの力を存分に引き出す曲との出会い、部員たちの技術的・精神的成長、さらには指導者である新倉先生自身の成長もあり、今藤沢西高校吹奏楽部は沸点へと到達しつつある。東関東大会のみならず、今後の彼らの活動は要注目である。

  
  
22日は練習室で、30日は視聴覚教室で行われた合奏。両日とも全体的なイメージを意識しつつ、細部に対してもかなりこだわった練習が行われた。特に30日は練習の最後で、コンクール出場曲である『クラブ・ヨーロッパ』をフル演奏してくれた(あれはサービスだったんすか?)が、大変感動的であった。東関東大会でも西高サウンドを響かせてきて下さい!