2013.04.07up
 

音楽に始まり,音楽で完結しようとする意志
 
春の穏やかな夕暮れ。

茅ヶ崎市民文化会館向いの中央公園では、健気な桜たちがこの日がHWEの第33回定期演奏会であることを知っているかの如く、なるべく花を散らさないよう慮ってくれているようであった。

この定演のHWEはエネルギーに満ち溢れている印象であった。
それはプログラム構成にも表れていた。

代表顧問の新倉徹也先生が北陵に赴任されて丸3年。
ステージに上がるのは全員、新倉チルドレンということになる。

つまり、もとから高い解釈力を持ち合わせていた生徒たちを十分把握した上、ミーティング等で意志疎通を図り、練り上げた渾身のプログラムなのだろうと察することが出来る。

今回、3人の指揮者がタクトを振った。
少なくとも「部活ネット」創設以来、初めてのことであり、その効果も十分勘案しての楽曲配置であったと思われる。

アンコールを含め、音楽に始まって、あくまで音楽で完結しようというプログラムであった 。

各楽曲の演奏について、管理人の感じたことを書かせてもらいます。
 


■第一部■
 
三日月に架かるヤコブのはしご[真島俊夫]

第一部開始前に演奏された“ロサンジェルスオリンピックファンファーレ”の余韻を受け継ぎつつ、気だるい感じのトロンボーンから木管へのリレーはそれだけでもプログラム全体への意図を感じさせた。

雄大な夜空を想起させる演奏は、コンサートの始まりに相応しい選曲であった。


海の歌[レックス・ミッチェル]

今井佳奈子先生が定演での初めての指揮をする記念の楽曲となった。

タイトルから当然「海」を想像することになるが、そこには心的葛藤をじわじわと描く丁寧さが感じられ、特にオーボエのソロがせつなく、気持ちを奮い立たせる前の逡巡を示しているような絵が浮かんだ。
(管理人は最近オーボエっていいなぁと密かに思っている)

逡巡から一歩踏み出すような場面転換は背筋が痺れるものだった。

また是非指揮をされて下さいませ。
楽しみにしています!


ルイ・ブルジョアの賛歌による変奏曲[クロード・トーマス・スミス]

トランペットが特に難度の高い曲なのかと思って聴き入った。

初期の手塚アニメに登場しそうな細かな音・半音進行の連続、パイプオルガンのような響き、さらにのちに電子ピアノ風に聴こえるような管の音。
吹奏楽器の可能性の豊かさを示すような楽曲で、メリハリが効いて、迫力ある演奏になっていた。


 
左)ご存じ新倉徹也先生。相変わらずの迫力で4曲を指揮されました 右)北陵定演初の指揮を執った今井佳奈子先生。さぞ緊張されたことでしょう
 

■第二部■
 
アルメニアン・ダンス パートT[アルフレッド・リード]

この曲に対する思い入れの深さが滲み出る演奏で、すごく丁寧に演奏しているのがわかった。
丁寧に紡いだ音というのは人の気持ちを揺さぶるものらしい。

管理人の妄想メモには「優しい人がある時厳しく接する。しかし、それは一時的なもので、実は大きな包容力に守られている」とある。

終盤になるにつれ、圧倒的なスピード感を醸し出し、ダイナミクスも劇的に変化。
ラストのブレイクに至り、感極まった。

新倉先生がリードという作曲家に対する深い愛情を抱いているのがよくわかる演奏だったと言えよう。


2つの交響的断章[ヴァーツラフ・ネリベル]

やはり“土屋テイスト”と呼ぶのが相応しい選曲である。

人を不安に陥れるような出だし、木管のソロとコントラバスが渇きを表す一方、打楽器群が何かを引き裂くかのように割り込む。
心理をえぐられるようなダイナミクス変化。

1つの音が沈むと、別の音が湧き上がり、打楽器は本音を暴こうとする。
ネリベルという作曲家がこの曲を作った時、もしも穏やかで安定した生活を送っていたのだとしたら、こちらが人間不信になりそうだ。

どういう絵を思い浮かべながら練習するのかはわからないのだが、演奏者が役どころを十分に意識し、解釈している印象だ。
こうした演奏からも彼らの解釈力・想像力の高さは垣間見える。

指揮者としての土屋吉弘さんのキャラが立つ楽曲で、演奏中の目配りもひじょうによく効いている印象だった。


第2部「アルメニアン・ダンス パートT」では大太鼓のプレーヤーとして、「2つの交響的断章」では指揮者として大活躍だった土屋吉弘さん。ホルジンガーに続く新境地を開拓か...?
 
 

■第三部■
 
「くるみ割り人形」組曲[ピョートル・チャイコフスキー]

8つの曲に分かれているので、それぞれについての感想を述べます。

@小序曲
柔らかい出だしが木管の分厚いアンサンブルのようで癒される。

A行進曲
おなじみのテーマを控えめな金管がコントロールし、ひじょうに滑らかな印象。
3本のコントラバスの息もピタリと合っている。

Bこんぺい糖の精の踊り
チェレスタ(という名前っすか?)とクラリネットの奏でるテーマを誠実にコントラバスが支えるイメージで、管理人的にはひじょうにツボにはまった。

Cトレパック
安定感を保った金管群が劇的にテンポを上げてゆくところは圧巻。

Dアラビアの踊り
もとが子守唄だっただけあり、ピアニシモ状態の弱奏であるが、低音軍団が名脇役としていい仕事をしている印象が強い。

E中国の踊り
キレのいいフルート・ピッコロの演奏を、ここでも低音がきっちり支えている。
ここまでくると、この組曲は低音楽器のために書かれたのではないかという気持ちになってくる。

Fあし笛の踊り

優しく奏でる管楽器群がテンポの上げ下げに柔軟に対応し、シンクロ性の高い演奏だった。
また、DEFと全体のバランスもひじょうによい。

G花のワルツ
ピアノソロを挟んで最初のテーマに戻ってくるが、やはり丹念に演奏しようという意志が見られて好感が持てた。
最後まで弱奏部へのこだわりがあったのも大変よかった。

 
 
各部の幕前に行われたアンサンブル。上から順にクラリネット5重奏、木管5重奏、サキソフォン3重奏、フルート3重奏。どのチームも素晴らしい演奏でした

プログラム
 
■第一部
三日月に架かるヤコブのはしご[真島俊夫]
海の歌[レックス・ミッチェル]
ルイ・ブルジョアの賛歌による変奏曲[クロード・トーマス・スミス]

■第二部
アルメニアン・ダンス パートT[アルフレッド・リード]
2つの交響的断章[ヴァーツラフ・ネリベル]

■第三部

「くるみ割り人形」組曲[ピョートル・チャイコフスキー]

■アンコール

ワルキューレ[リヒャルト・ワーグナー]
 
さらなる飛躍を!
 
多くの3年生が定期演奏会を以ってひと区切りつけるのが通例となったHWE。

ほぼ2年のサイクルで部員が入れ替わってゆくことになるため、新しい1年生をどう育ててゆくかが毎年の課題となる。

せっかく分厚い演奏になったのに惜しい気がしますが...

コンクールまでやる3年生諸君にエールを贈ると同時に、新1年生がたくさん入部することを祈念致します。

<管理人より>